先日、ある保護者の方からこんなご相談をいただきました。
「海外では英語も日本語も問題なかったのに、日本に戻ったら国語だけ伸び悩むんです。どう勉強させれば良いのでしょうか?」と。
僕も何度も同じご相談を受けてきましたが、結論からお話しすると、
帰国生の国語力は“知識量”ではなく“言語環境のギャップ”をどう埋めるかが鍵なんです。
ここを理解していただけると、お子さんの学習がとても楽になりますよ!
帰国生が国語でつまずくのは「日本語ができないから」ではありません
よく誤解されますが、帰国生の子は日本語ができていないわけではありません。
むしろ会話も自然で、語彙も豊富です。
それでも国語の読解になると急に苦しくなる。
この現象は、
日常で使う日本語(生活言語)と、学習で使う日本語(学習言語)の差 から生じます。
生活言語は「会話中心」。
学習言語は「抽象中心」。
国語の試験はほとんどが学習言語で書かれています。
つまり、生活言語がどれだけ流暢でも、学習言語への対応が不十分だと読解問題で急に壁を感じるんですね。
お子さんが悪いわけではありません。
むしろ、それが自然なことなんです。
読書量だけでは国語力が安定しない理由
帰国生の保護者からよく言われます。
「本はよく読むんです。でも成績につながらないんです」と。
僕自身の指導でも、読書が大好きな子ほど「読解問題の構造理解」が遅れるケースがよくありました。
なぜかというと、
読書で増える語彙は“物語語彙”や“情景語彙”が中心で、学習日本語の抽象語彙とは系統が違うから なんです。
たとえば以下のような語は、読書ではあまり鍛えられません。
・抽象的な概念語(「前提」「要因」「背景」「構造」など)
・論理接続語(「しかし」「ところが」「一方で」など)
・比喩や慣用句(「皮肉」「象徴」「視点をずらす」など)
これらは読解スキルに直結する語彙であり、意識して学ぶ必要があります。
だからこそ、
帰国生の国語力は“読解の道具をそろえる”作業が欠かせないのです。
帰国生に多い3つのつまずき方
僕がこれまで指導してきた帰国生のお子さんを見ていると、
大きく三つのパターンに分かれます。
1. 会話は問題ないのに、文章の“構造”がつかめない
英語は語順が明確で、主語が先に来ます。
日本語は主語が省略され、情報が後ろから追加される構造です。
そのため、段落の流れを追うのが難しくなりやすいんです。
2. 抽象語を英語で考えてしまう
「前提」「主張」「要因」などの抽象語が、日本語で“感覚的に”つかめない。
英語に一度置き換えてしまい、理解に時間がかかるタイプです。
3. 背景知識の差が文章理解に影響する
日本のニュース、学校生活、文化的前提。
ここが弱いと文章全体のイメージがぼやけてしまいます。
どのタイプでも、“本人の努力不足”ではありません。
言語環境の差が、そのまま読解の負荷になっているだけなんです。
効率よく伸ばすために必要なのは“道具づくり”です
帰国生の子にとって一番大切なのは、
文章を読むための道具(語彙・構造理解・背景知識)を丁寧にそろえていくことです。
そのために効果が高いのは、次の三つのアプローチです。
1. 抽象語彙のストックを増やす
「背景」「結論」「根拠」「姿勢」など、読解に必要な語彙を丁寧に積み重ねること。
一度覚えると一気に文章が読みやすくなります。
2. 文章構造の“型”をつかむ
段落の「言いたいこと」と「説明部分」を分ける練習。
これは国語の根幹であり、帰国生の子ほど効果が出やすいです。
3. 背景知識を意識して補う
日本の社会問題、文化、学校生活。
軽いニュース要約や会話を通じて補っていくと、文章理解が格段にスムーズになります。
こうしたトレーニングは、派手ではありません。
ただし、確実に成果が出る積み重ねなんです。
家庭でできるサポートは“英語と比較しすぎない”こと
保護者の方にお伝えしているのは、
「英語は得意なのに、日本語は…」と比較しないことです。
言語環境が違えば、得意と苦手も変わります。
本人も薄くプレッシャーを感じていることが多いので、
「時間をかけていいんだよ」と言っていただけると、安心につながるんです。
また、家庭ではこんな声かけが有効です。
・ニュースや身近な出来事を少し説明してもらう
・短い文章を一緒に要約してみる
・知らない語を責めず、「どういう意味だと思う?」と優しく聞く
国語は、焦らずじっくり育てる教科になります。
まとめ
帰国生の国語力は、知識不足ではなく “言語環境のギャップをどう埋めるか” が本質になります。
だからこそ、抽象語彙の積み重ねや文章構造の理解など、
学習日本語への橋渡しを丁寧に続けることが何より大切なんです。
成績が安定するまで時間がかかることもありますが、
正しい方法で継続すれば、必ず読み取れる力は育っていきます。少しずつ、焦らず、一歩ずつ積み重ねていきましょう!




